与謝野晶子詩歌集

.

 
 
 
 
 
 
 
むらさき理想りさうの雲はちぎれ/\仰ぐわが空それはた消えぬ 
 
乳ぶさおさへ神秘しんぴのとばりそとけりぬここなる花のくれなゐぞ濃き 
 
 
    × 
人は黒黒くろぐろぬり消せど 
すかして見える底のきん。 
時の言葉はへだつれど 
ゆるは歌のきんの韻。 
ままよ、しばらすみに居ん。 
    × 
いつか大きくなるままに 
子らは寝にず、母のそば。 
母はまだまだひたきに、 
きんのお日様、おし驢馬ろば、 
おとぎばなしひたきに。 
    × 
ふくろふがなく、宵になく、 
山の法師がつれてなく。 
わたしは泣かない気でゐれど、 
からりと晴れた今朝けさの窓 
あまりに青い空に泣く。