与謝野晶子詩歌集

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ひく袖に片笑かたゑみもらす春ぞわかき朝のうしほの恋のたはぶれ 
 
くれの春隣すむ画師ゑしうつくしき今朝けさ山吹に声わかかりし 
 
郷人さとびとにとなりやしきのしら藤の花はとのみに問ひもかねたる 
 
人にそひてしきみささぐるこもりづま母なる君を御墓みはかに泣きぬ 
 
 
    × 
れも彼方かなたきたがる、 
明るい道へ目を見張る、 
おそらく其処そこに春がある。 
なぜかくほどその道が 
今日けふのわたしに遠ざかる。 
    × 
青い小鳥のひかるはね、 
わかい小鳥の躍る胸、 
遠い海をば渡りかね、 
泣いてゐるとはれが知ろ、 
まだ薄雪の消えぬ峰。 
    × 
つうちで象をつうくつた、 
大きな象が目に立つた、 
象の祭がさあかえた、 
象がにはかにえだした、 
えたら象がこおわれた。 
    × 
まぜ合はすのは目ぶんりやう、 
その振るときのたのしさう。 
かつくてえるのことでない、 
わたしの知つたことでない、 
若い手で振る無産党。 
    × 
鳥を追ふとて安壽姫あんじゆひめ、 
母にひたや、ほおやらほ。 
わたしもひたや、なほひと目、 
載せて帰らぬ遠い夢、 
どこにゐるやら、真赤まつかな帆。