なにとなく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな おばしまにおもひはてなき身をもたせ小萩をわたる秋の風見る × 鳥屋が百舌(もず)を飼はぬこと、 そのひと声に百鳥(ももどり)が おそれて唖(おし)に変ること、 それに加へて、あの人が なぜか折折(をりをり)だまること。 × 逆(さか)しに植ゑた戯れに あかい芽をふく杖(つゑ)がある。 指を触れたか触れぬ間(ま)に 石から虹(にじ)が舞ひあがる。 寝てゐた豹(へう)の目が光る。 × われにつれなき今日(けふ)の時、 花を摘み摘み行(ゆ)き去りぬ。 唯(た)だやさしきは明日(あす)の時、 われに著(き)せんと、光る衣(きぬ) 千(ち)とせをかけて手に編みぬ。 × がらすを通し雪が積む、 こころの桟(さん)に雪が積む、 透(す)いて見えるは枯れすすき、 うすい紅梅(こうばい)、やぶつばき、 青いかなしい雪が積む。