与謝野晶子詩歌集

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うすものの二尺のたもとすべりおちて蛍ながるる夜風よかぜの青き 
 
恋ならぬねざめたたずむ野のひろさ名なし小川のうつくしき夏 
 
 
    × 
おのが痛さを知らぬ虫、 
折れたあしをもむであろ。 
人の言葉を持たぬ牛、 
はずに死ぬることであろ。 
ああ虫で無し、牛でなし。 
    × 
夢にをりをり蛇をる、 
蛇に巻かれて我が力 
ようこと無しに蛇をる。 
それも苦しい夢か知ら、 
人が心で人をる。 
    × 
身をふに過ぐ、ほかを見よ、 
黙黙もくもくとして我等あり、 
我が痛さより痛きなり。 
を見るに過ぐ、目を閉ぢよ、 
乏しきものはおのれなり。 
    × 
論ずるをんな糸らず、 
みちびく男たがやさず、 
大学を出ていとさかし、 
言葉は多し、手は白し、 
れをぢずばなにづ。