与謝野晶子詩歌集

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御袖ならず御髪みぐしのたけときこえたり七尺いづれしら藤の花 
 
夏花のすがたは細きくれなゐに真昼まひるいきむの恋よこの子よ 
 
 
 
 
 
 
 
  我子等よ 
 
いとしき、いとしき我子等わがこらよ、 
世に生れしはわざはひか、 
たれこれを「いな」とはん。 
 
されど、また君達は知れかし、 
これがために、我等——親も、子も—— 
一切の因襲を超えて、 
自由と愛に生きることを、 
みづからの力にりて、 
新らしき世界を始めることを。 
 
いとしき、いとしき我子等わがこらよ、 
世に生れしは幸ひか、 
たれこれを「いな」とはん。 
いとしき、いとしき我子等わがこらよ、 
今、君達のために、 
この母は告げん。 
 
君達は知れかし、 
我等わがらいへに誇るべき祖先なきを、 
私有する一尺の土地も無きを、 
遊惰いうだの日を送るさいも無きを。 
君達はまた知れかし、 
我等——親も子も—— 
行手ゆくてには悲痛の森、 
寂寞せきばくみち、 
その避けがたきことを。 
 
 
 
 
 
 
 
  親として 
 
人の身にしておのを 
愛することは天地あめつちの 
成しのままなる心なり。 
けものも、鳥も、物はぬ 
木さへ、草さへ、おのづから 
ひなたねとをはぐくみぬ。 
 
児等こらません欲なくば 
人はおほかたおこたらん。 
児等こらの栄えを思はずば 
人はその身を慎まじ。 
うつくしさ素直さに 
すべての親はきよまりぬ。 
 
さても悲しや、今の世は 
働くのうを持ちながら、 
職に離るる親多し。 
いとしき心余れども 
を養はんことがたし。 
如何いかにすべきぞ、人に問ふ。