与謝野晶子詩歌集

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うながされてみぎはやみに車おりぬほの紫の反橋そりはしふぢ 
 
われとなくをさの手とめしかどうた姉がゑまひの底はづかしき 
 
 
 
 
 
 
 
  絵師よ 
 
わが絵師よ、 
わが像をたまはんとならば、 
ねがはくば、ただ写したまへ、 
わがひとみのみを、ただ一つ。 
 
宇宙の中心が 
太陽の火にあるごとく、 
われを端的に語る星は、 
ひとみにこそあれ。 
 
おお、愛欲のほのほ、 
陶酔のにじ、 
直観の電光、 
芸術本能の噴水。 
 
わが絵師よ、 
紺青こんじやうをもて塗りぶしたる布に、 
ただ一つ、写したまへ、 
わが金色こんじきひとみを。