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黒猫
押しやれども、
またしても膝に上る黒猫。
生きた天鵝絨よ、
憎からぬ黒猫の手ざはり。
ねむたげな黒猫の目、
その奥から射る野性の力。
どうした機会やら、をりをり、
緑金に光るわが膝の黒猫。
曲馬の馬
競馬の馬の打勝たんとする鋭さならで
曲馬の馬は我を棄てし
服従の素速き気転なり。
曲馬の馬の痩せたるは、
競馬の馬の逞しく美くしき優形と異なりぬ。
常に飢じきが為め。
競馬の馬もいと稀に鞭を受く。
されど寧ろ求めて鞭打たれ、その刺戟に跳る。
曲馬の馬の爛れて癒ゆる間なき打傷と何れぞ。
競馬の馬と、曲馬の馬と、
偶ま市の大通に行き会ひし時、
競馬の馬はその同族の堕落を見て涙ぐみぬ。
曲馬の馬は泣くべき暇も無し、
慳貪なる黒奴の曲馬師は
広告のため、楽隊の囃しに伴れて彼を歩ませぬ……