紺青(こんじやう)を絹にわが泣く春の暮やまぶきがさね友(とも)歌ねびぬ まゐる酒に灯(ひ)あかき宵を歌たまへ女(をんな)はらから牡丹に名なき 車の跡 ここで誰(たれ)の車が困つたか、 泥が二尺の口を開(あ)いて 鉄の輪にひたと吸ひ付き、 三度(みたび)四度(よたび)、人の滑(すべ)つた跡も見える。 其時(そのとき)、両脚(りやうあし)を槓杆(こうかん)とし、 全身の力を集めて 一気に引上げた心は 鉄ならば火を噴いたであらう。 ああ、自(みづか)ら励(はげ)む者は 折折(をりをり)、これだけの事にも その二つと無い命を賭(か)ける。 繋縛 木は皆その自(みづか)らの根で 地に縛られてゐる。 鳥は朝飛んでも 日暮には巣に返される。 人の身も同じこと、 自由な魂(たましひ)を持ちながら 同じ区、同じ町、同じ番地、 同じ寝台(ねだい)に起き臥(ふ)しする。