或る若き女性に
頼む男のありながら
添はれずと
泣いて添はれる
それと知る身は
うち
片おもひとて恋は恋、
ひとり光れる
君が
人の
海をよく知る船長は
早くも
賢き人は涙もて
身を
君は
かく問ふことも我はせず、
うち
君は
君死にたまふことなかれ
(旅順の攻囲軍にある弟宗七を歎きて)
ああ、弟よ、君を泣く、
君死にたまふことなかれ。
親のなさけは
親は
人を殺せと教へしや、
人を殺して死ねよとて
親の名を継ぐ君なれば、
君死にたまふことなかれ。
旅順の城はほろぶとも、
ほろびずとても、
君は知らじな、あきびとの
君死にたまふことなかれ。
すめらみことは、戦ひに
おほみづからは
死ぬるを人の
おほみこころの深ければ、
もとより
ああ、弟よ、戦ひに
君死にたまふことなかれ。
過ぎにし秋を
おくれたまへる
歎きのなかに、いたましく、
母の
あえかに若き
君忘るるや、思へるや。
この世ひとりの君ならで
ああまた
君死にたまふことなかれ。