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師の君の目を病みませる庵の庭へうつしまゐらす白菊の花
文字ほそく君が歌ひとつ染めつけぬ玉虫ひめし小筥の蓋に
梅蘭芳に
うれしや、うれしや、梅蘭芳
今夜、世界は
(ほんに、まあ、華美な唐画の世界、)
真赤な、真赤な
石竹の色をして匂ひます。
おお、あなた故に、梅蘭芳、
あなたの美くしい楊貴妃ゆゑに、梅蘭芳、
愛に焦れた女ごころが
この不思議な芳しい酒となり、
世界を浸して流れます。
梅蘭芳、
あなたも酔つてゐる、
あなたの楊貴妃も酔つてゐる、
世界も酔つてゐる、
わたしも酔つてゐる、
むしやうに高いソプラノの
支那の鼓弓も酔つてゐる。
うれしや、うれしや、梅蘭芳。