海棠にえうなくときし
水にねし嵯峨の
春の国恋の御国のあさぼらけしるきは髪か
今はゆかむさらばと云ひし夜の神の
帰途
わたしは先生のお宅を出る。
先生の視線が私の背中にある、
わたしは
葉巻の香りが私を追つて来る、
わたしは
玄関から
赤土の坂、並木道、
太陽と松の幹が太い
わたしはぱつと日傘を拡げて、
左の手に持ち直す、
頂いた
どこかで
拍子木
風ふく
手ずれ、
二つ触れては澄み
みづから打ち
みづから聴きて楽しからん。
部屋ごとに
百
ひなげしと
慰むるためならず、
ここに
感謝を忘れ、
つと泣かまほしくなりぬ。
堀口大學さんの詩
三十を越えて
詩人
実在の恋人現れよ、
その詩を読む女は多けれど、
詩人の手より
マリイ・ロオランサンの扇。