与謝野晶子詩歌集

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  夏の宵 
 
いたましく、いたましく、 
流行はやりかぜ三人みたりまで 
我児わがこぞ病める。 
梅霖つゆの雨しとどと降るに、汗流れ、 
こんこんと、苦しきのどせきするよ。 
兄なるは身を焼くねつに父を呼び、 
泣きむづかるを、その父が 
いだきすかして、売薬の 
安知歇林アンチピリンを飲ませども、 
せきしつつ、なかばゑづきぬ。 
あはれ、此夜このよのむし暑さ、 
氷ぶくろを取りかへて、 
団扇うちはとり児等こらあふげば、 
蚊帳かやごしに蚊のむれぞ鳴く。 
 
 
 
 
 
 
 
  如何に若き男 
 
如何いかに若き男、 
ダイヤのたまを百持てこ。 
空手むなでしながらべき 
物とや思ふ、あはれ愚かに。 
たをやめの、たをやめのあかきくちびる。