与謝野晶子詩歌集

.

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  初春はつはる 
 
ひがむ気短きみじかな鵯鳥ひよどりは 
木末こずゑの雪を揺りこぼし、 
枝から枝へ、甲高かんだかに 
てつく冬の笛を吹く。 
それを聞く 
わたしの心も裂けるよに。 
それでも木蔭こかげ下枝しづえには 
あれ、もう、愛らしいうぐひすが 
雪解ゆきげの水のながれに 
軽くそり打つ身を映し、 
ちちとく、ちちとく。 
その小啼ささなきは低くても、 
春ですわね、春ですわね。 
 
 
 
 
 
 
 
  仮名文字 
 
わが歌の仮名文字よ、 
あはれ、ほつほつ、 
止所とめどなく乱れ散る涙のしづく。 
たれかまた手に結びたまとはでん、 
みにくくも乱れ散る涙のしづく。 
あはれ、この文字、我がな読みそ、 
君ぬらさじときとむる 
しがらみの句切くぎりよどに 
青きうれひ水渋みしぶいざよふ。