与謝野晶子詩歌集

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小川われ村のはづれの柳かげに消えぬ姿を泣く子あさし 
 
鶯に朝寒からぬ京の山おち椿ふむ人むつまじき 
 
 
 
 
 
 
 
  空しき日 
 
女、三越みつこしの売出しにきて、 
寄切よせぎれの前にのみ一日ひとひありき。 
帰りきて、かくとへば、 
男は独り棋盤ごばんに向ひて 
五目並べの稽古けいこしてありしとふ。 
れいれいとを重ねたる今日けふの日のむなしさよ。) 
さて男は疲れてもだし、また語らず、 
女もつひに買物を語らざりき。 
その買ひて帰れるは 
わづか高浪織たかなみおりの帯の片側かたかはに過ぎざれど。 
 
 
 
 
 
 
 
  麦わら 
 
それは細き麦稈むぎわら、 
しやぼん玉を吹くによけれど、竿さをとはしがたし、 
まして、まして柱とは。 
されど、麦稈むぎわらも束として火をくれば 
ゆゆしくもいへを焼く。 
わがをさなは賢し、 
束とはせず、しやぼん玉を吹いてくよ。