与謝野晶子詩歌集

.

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  恋 
 
一切を要す、 
われはあこがるるたましひなり。 
物をしみなそ、 
もたらす物のなほありとならば。—— 
初めに取れる果実このみ年経としふれどあかし、 
われこそ物を損ぜずしてづるすべを知るなれ。 
 
 
 
 
 
 
 
  対話 
 
「常につゑりてく者は 
そのつゑを失ひし時、みづからをも失はん。 
われは我にてかばや」と、われ語る。 
友は笑ひて、さてひぬ、 
「ないつはりそ、 
つとばかり涙さしぐむ君ならずや、 
恋人の名を耳にするにも。」 
 
 
 
 
 
 
 
  或女 
 
古き物のなほ権威ある世なりければ 
かれは日本の女にて東の隅にありき。 
またかれは精錬せられざりしかば 
なほあらがねのままなりき。 
みづからを白金プラチナしつと知りながら……