与謝野晶子詩歌集

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秋の神の御衣みけしより曳く白き虹ものおもふ子の額に消えぬ 
 
きやうはにがし春のゆふべを奥の院の二十五菩薩歌うけたまへ 
 
 
 
 
 
 
  牡丹 
 
ベルサイユきゆうを過ぎしかど、 
われはれにまさる花を見ざりき。 
牡丹ぼたんよ、 
葉は地中海の桔梗色ききやういろ群青ぐんじやうとを盛り重ね、 
花は印度いんどの太陽の赤光しやくくわうを懸けたり。 
たとひ色相しきさうはすべてむなしとも、 
なにいたまん、 
牡丹ぼたんを見つつあるあひだは 
豊麗炎熱えんねつの夢に我のひたれば。 
 
 
 
 
 
 
 
  弓 
 
きかな、うつくしきかな、 
矢をつがへて、ひぢ張り、 
引き絞りたる弓のかたち。 
射よ、射よ、子等こらよ、 
鳥ならずして、射よ、 
の空を。 
 
まとを思ふことなかれ、 
子等こらと弓との共に作る 
そのかたちこそいみじけれ、 
だ射よ、の空を。