文の端に 皐月(さつき)なかばの晴れた日に、 気早(きばや)い蝉(せみ)が一つ啼(な)き、 何(なに)とて啼(な)いたか知らねども、 森の若葉はその日から 火を吐くやうな息をする。 君の心は知らねども…… 教会の窓 崖(がけ)の上なる教会の 古びた壁の脂(やに)の色、 常に静かでよいけれど、 高い庇(ひさし)の陰にある 円(まる)い小窓(こまど)の摺硝子(すりがらす)、 誰(たれ)やら一人(ひとり)うるみ目に 空を見上げて泣くやうな、 それが寂(さび)しく気にかかる。 裏口へ来た男 台所の閾(しきゐ)に腰すゑた 古(ふる)洋服の酔(ゑ)つぱらひ、 そつとしてお置きよ、あのままに。 ものもらひとは勿体(もつたい)ない、 髪の乱れも、蒼(あを)い目も、 ボウドレエルに似てるわね。