与謝野晶子詩歌集

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人の子にかせしは罪かわがかひな白きは神になどゆづるべき 
 
ふりかへり許したまへの袖だたみやみくる風に春ときめきぬ 
 
 
 
 
 
 
 
  間問題 
 
相共あひともにそのみづからの力を試さぬ人とかじ、 
彼等の心にはすきあり、油断あり。 
よしもなき事ども—— 
善悪とふ事どもを思へるよ。 
 
 
 
 
 
 
 
  現実 
 
過去はたとひ青き、き、たざる、 
如何いかにありしとも、 
今は甘きか、にほはしきか、 
今は舌を刺す力あるか、無きか、 
君よ、今の役に立たぬ果実このみを摘むなかれ。 
 
 
 
 
 
 
 
  饗宴 
 
商人あきびとらの催せる饗宴きやうえんに、 
我の一人ひとりまじれるは奇異ならん、 
我の周囲は目にて満ちぬ。 
商人あきびとらよ、晩餐ばんさんを振舞へるは君達なれど、 
我の食らふはなほ我の舌のあぢはふなり。 
さて、商人あきびとらよ、 
おのおの、その最近の仕事にいて誇りかに語れ、 
我はさる事をも聴くを喜ぶ。