与謝野晶子詩歌集

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魔のわざを神のさだめと眼を閉ぢし友の片手の花あやぶみぬ 
 
歌をかぞへその子この子にならふなのまだすんならぬ白百合の芽よ 
 
 
 
 
 
 
 
  ひるまへ 
 
てれ、れん、れんと鳴り出した。 
つて、れん、れんと鳴り出した。 
それは傴僂せむしのマンドリン、 
昼まへに来るマンドリン 
歌もうたやるマンドリン。 
 
窓の硝子がらすに寄つたれば、 
白いレエスの冷たさよ。 
お城の壁に紅葉もみぢした、 
蔦の葉のよな襟かざり。 
上を見上げる襟かざり。 
 
ちり、りん、りんとアンスウの 
ちさい銅貨が敷石の 
上で立てたる走り泣き。 
初めのお客は誰れであろ、 
わたしも投げてやりませう。 
 
今朝の夜明の四時過ぎに、 
誰れかとしたる喧嘩から、 
ずつと泣いてたお隣の、 
夫人マダムの顔をちよいと見た。 
向うもわたしをちよいと見た。 
 
思はず髪を引き入れた、 
白い四階の窓口へ、 
巴里パリーは今日も薄曇り) 
湿つた金薄はくを撒くやうに、 
アカシヤの葉が散りかかる。 
 
 
 
 
 
 
 

(つづく)

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
     
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 底本:「晶子詩篇全集」実業之日本社 
1929(昭和4)年1月20日発行 
 
「定本 與謝野晶子全集 第九巻 詩集一」講談社 
1980(昭和55)年8月10日第1刷発行 
 
「定本 與謝野晶子全集 第十巻 詩集二」講談社 
1980(昭和55)年12月10日第1刷発行 
 
「みだれ髪」名著複刻全集 近代文学館、日本近代文学館 
1968(昭和43)年12月発行 
※ このファイルは、青空文庫で作成されたものを編集し再構成しています。 
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」を、大振りにつくっています。 
入力:武田秀男 田中哲郎 
校正:kazuishi 富田倫生 
構成:明かりの本 
ファイル作成: 
2004年6月24日作成 
2012年3月23日修正 
2018年12月17日構成 
 
青空文庫作成ファイル: 
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