与謝野晶子詩歌集

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ながしつる四つの笹舟さゝぶね紅梅を載せしがことにおくれて往きぬ 
 
奥ののうらめづらしき初声うぶごゑに血の気のぼりしおもまだ若き 
 
 
 
 
 
 
 
  五月の歌 
 
ああ、五月ごぐわつ、 
そなたは、うつくしい 
季節の処女をとめ 
太陽の花嫁。 
 
そなたのめに、 
野は躑躅つゝじを、 
水は杜若かきつばたを、 
森はふぢさゝげる。 
 
微風そよかぜも、蜜蜂みつばちも、 
はた杜鵑ほとゝぎすも、 
だそなたを 
めて歌ふ。 
 
五月ごぐわつよ、そなたの 
桃色の微笑ほゝゑみは 
木蔭こかげ薔薇ばらの 
花の上にもある。