与謝野晶子詩歌集

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  夏草 
 
庭にしげれる雑草も 
見る人によりあはれなり、 
心にのぼ雑念ざふねんも 
一一いち/\見れば捨てがたし。 
あはれなり、捨てがたし、 
捨てがたし、あはれなり。 
 
 
 
 
 
 
 
  たんぽぽの穂 
 
うすずみ色の梅雨空つゆぞらに、 
屋根の上から、ふわふわと 
たんぽぽの穂が白く散る。 
 
ねつと笑ひを失つた 
老いた世界の肌皮はだかはが 
枯れてがれて落ちるのか。 
 
たんぽぽの穂の散るままに、 
ちらと滑稽おどけた骸骨がいこつが 
前に踊つて消えてく。 
 
なにか心の無かるべき。 
ほつと気息いきをばつきながら 
思ひあまりて散るならん、 
梅雨つゆ晴間はれまの屋根の草。