夏草 庭に繁(しげ)れる雑草も 見る人によりあはれなり、 心に上(のぼ)る雑念(ざふねん)も 一一(いち/\)見れば捨てがたし。 あはれなり、捨てがたし、 捨てがたし、あはれなり。 たんぽぽの穂 うすずみ色の梅雨空(つゆぞら)に、 屋根の上から、ふわふわと たんぽぽの穂が白く散る。 熱(ねつ)と笑ひを失つた 老いた世界の肌皮(はだかは)が 枯れて剥(は)がれて落ちるのか。 たんぽぽの穂の散るままに、 ちらと滑稽(おど)けた骸骨(がいこつ)が 前に踊つて消えて行(い)く。 何(なに)か心の無かるべき。 ほつと気息(いき)をばつきながら 思ひあまりて散るならん、 梅雨(つゆ)の晴間(はれま)の屋根の草。