地震後一年
九月
ああ東京、横浜、
相模、伊豆、安房の
各地に生き残つた者の心に、
どうして、のんきらしく、
あの日を振返る余裕があらう。
私達は
あの日のつづきにゐる。
まだまだ致命的な、
大きな恐怖のなかに、
刻一刻ふるへてゐる。
激震の急襲、
それは決して過ぎ去りはしない、
次の
私達は油断なく
地獄から地獄へ、
心の上のおごそかな事実、
ああこの不安をどうしよう、
笑ふことも出来ない、
紛らすことも出来ない、
理詰で無くすることも出来ない。
もう
あのやうなカタストロフは無いと
それこそ迷信家を
さう
有ることの許される
九月
古簾
今年も
地震の夏の古い
あの時、皆が逃げ出したあとに
この
置き
もし私の
第一の犠牲となつたであらう。
三日目に
さらさらと
二階から見上げた空の
大きさ、青さ、みづみづしさ。
その糸は切れかけてゐる。
でも、なつかしい
共に
おまへを手づから巻くたびに、
新しい感謝が
四年前の九月のやうに
おまへも私も生きてゐる。