記事一章
今は
(私は正しく書いて置く、)
一千九百十六年一月十日の
午前二時
そして
一つの不意な事件が
私を前後不覚に
くつくつと笑はせた。
宵の八時に
子供達を皆寝かせてから、
雑誌の原稿を書いて居た。
船のやうに
この器械的地震に対して
私達の反応は鈍い、
もう午前二時になつたと感じた
それから
庭に向いて机を据ゑた私と
雨戸を中に一尺の距離もない
突然、一つの
「泥坊の
思はずくつくつと笑つた。
「
あわてて口を
そつと垣の向うへ逃げた者がある。
「泥坊が
大洋の底のやうな六時間の沈黙が破れて、
こんなに
砂
砂の身なれば人
風の吹く日は
雨の降る日は泥となり、
人、牛、馬の踏むままに
れんげ、たんぽぽ、
ひるがほ、野菊、
むらむらと咲く日もあれど、
流れて寄れる種なれば
やがて流れて跡も無し。
怖ろしい兄弟
ここの
総領の甚六がなつてゐる。
欲ばかり
思ひやりの欠けてゐる兄だ。
不意に、隣の
半身不随の亭主に、
「きさまの持つてゐる
目ぼしい地所や
おらは不断おめえに恩を掛けてゐる。
おらが居ねえもんなら、
おめえの財産なんか
近所から
その
なんぼよいよいでも、
隣の
あるだけの智慧をしぼつて
甚六の言ひ
押問答が長引いて、
文句に詰つた甚六が
得意な最後の手を出して、
大勢の甚六の兄弟が
がやがやと寄つて来た。
「腰が
「
「もつと相手をいぢめねえ、」
「なぜ、いきなり
「文句なんか
こんなことを
兄を
兄を励ます兄弟ばかりである。
ほんとに兄を思ふ心から、
なぜ無法な言ひ
兄の最初の発言を
おお、