与謝野晶子詩歌集

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三たりをば世にうらぶれしはらからとわれ先づ云ひぬ西の京の宿 
 
今宵こよひまくら神にゆづらぬやは手なりたがはせまさじ白百合の夢 
 
 
 
 
 
 
 
  わかれ 
 
君埋れ木の時を得て 
 花もみもあるかの君に 
  とつぎますなるよろこびを 
   ことほぐことば我れもてど 
 
別れの今のかなしさに 
 おつる涙をいかにせむ 
  心弱きを今さらに 
   あやしむ勿れ我が友よ 
 
雲のよそなる西の京 
 祇園あたりの高楼の 
  おばしま近く彼の君と 
   春を惜まん夕あらば 
 
忘れ草生ふ住吉の 
 松原つゞき茅渟の浦 
  つらはなれたる雁金の 
   音になくあたり忍べ君 
 
あれかさのみ多き世に 
 人の心のつらき時 
  同じ思ひに泣く友の 
   はるかにありと知れよかし 
 
松の葉ごしの夕月に 
 君が片ほの青きかな 
  かのあづまやのともしびは 
   我がまたゝきに似たらんか 
 
ふたりのたてる袖がきに 
 絶えず散り来る白梅の 
  再びさかむその春に 
   我は逢ふとも思ほえず 
 
忘るゝなかれこの夕 
 忘れ給ふな此夕 
  鴨の流れは清くとも 
   さがの桜はいみじかるとも