与謝野晶子詩歌集

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  朝がすみ 
 
欄により 
人もの云はぬ朝あけ 
大ひえの山 
すそ紫なり 
 
岡崎の里 
霜のあした 
ゆきし三人みたり 
あゝいつの秋 
 
君を兄とよびて 
紅葉かざせし二人 
やゝひくかりき 
合がさのひと 
 
黒谷の坂 
石おほきみち 
何れにかさむ手と 
まどひしは誰れ 
 
うさぎに見とれし 
わかきまなざし 
忘れず牧塲まきばかど 
君歌ありき 
 
おもへばその時 
恋をもかたりぬ 
あゝ罪しらんや 
をさなかりし 
 
はらからのおもひ 
それなりき 
そのひとも 
今とてあゝ神 
 
住の江の浦 
蝶のむくろそへて 
わすれ草つみぬ 
ちさきその人 
 
すゝめしは何 
秋赤き花 
いのると泣きぬ 
わがおもはるゝ恋 
 
涙なからんや 
われ少女をとめなり 
歌なからんや 
西の京の山