友のあしのつめたかりきと旅の朝わかきわが師に心なくいひぬ
ひとまおきてをりをりもれし君がいきその夜しら梅だくと夢みし
玉の小櫛
一
竜神うろくづ海のつかひ
肩さし手さし
数へおよばぬ
おん
小波わきて飾る黒髪
瑠璃の
水晶に
大わだつみの底の
時に
星の七つぞ深く落ちくる
『美はしきもの
いまし竜神おそれ思はず
やまと
相摸の海や
清らの恋のいきみすだまよ
星の
いま上げませるおん
『相摸の
とぞ
熱く落ちぬと落ちぬと見しは
あなや刺櫛珠の刺櫛
櫛に尾を曳き星は昇りて
二
天ざかる鄙の上総に
藻をかづき
天がした今さわげるも
よそに聴く安き
めざむれば海は
はしきやし美くし
床に敷き
上ろうや星や竜神
めづらかに尊かりしな
あな
得ばやとて相摸七浦
寄らずやと尋ねわびたる
さらば妻帆岡の
〔無題〕
あさはかにものいふ君よ、
うまびとは耳もて聴かず、
いとふかき心に聴きぬ。
世はみな君をあざむとも、
とまれ、千とせのいちにんに
うなづかれまくものはのたまへ。
恋ふるとて
恋ふるとて君にはよりぬ、
君はしも恋は知らずも、
恋をただ歌はむすべに
こころ燃え、すがたやせつる。
いかが語らむ
いかが語らむ、おもふこと、
そはいと長きこゝろなれ、
いま相むかふひとときに
つくしがたなき心なれ。
わが世のかぎり思ふとも、
われさへ知るは難からし、
君はた君がいのちをも
かけて知らむと願はずや。
夢のまどひか、よろこびか、
狂ひごこちか、はた熱か、
なべて詞に云ひがたし、
心ただ知れ、ふかき心に。
皷いだけば
皷いだけば、うらわかき
姉のこゑこそうかびくれ、
姉のおもこそにほひくれ、
桜がなかに
宇治の河見るたかどのに、
姉とやどれる春の夜の
まばゆかりしを忘れめや、
もとより君は、ことばらに
うまれ給へば、十四まで、
父のなさけを身に知らず、
家に帰れる五つとせも
わが家ながら心おき、
さては穂に出ぬ初恋や
したに焦るる胸秘めて
おもはぬかたの人に添ひ、
泣く音をだにも憚れば
あえかの人はほほゑみて
うらはかなげにものいひぬ、
あゝさは夢か、短命の
二十八にてみまかりし
姉をしのべば、更にまた
そのすくせこそ泣かれぬれ。