薔薇の歌(八章)
いざ
その
知りたまふや、
ここに
幸運の
いみじくも惑へるなり。
なつかしき人、
今、われに
これを得させたまへり、
この
めでたき
この花束のままに
太き
とりどりに
この
君が
花に足る喜びは、
クレオパトラも知らじ。
まして、
十二の
言ふべくも無し。
いざ
飽かず飽かず語らまほしけれ。
×
一つの
梅原さんの
寝たる女の絵の前に置かん。
一つの
ロダンの写真と
並べて置かん。
一つの
君と我との
さてまた二つの
子供達の
部屋部屋に分けて置かん。
あとの一つの
あの粗末なる鏡に
影映らば
花のためにいとほし。
若き
来たまはん時のために、
客間の卓の
葉巻の箱に添へて置かん。
×
どの
我等は生きぬ、
春と、愛と、
光との中に。
なつかしき
その
かくこそ豊かに
贈りたまひつれ。
どの
同じ都に住みつつ、
我は
まのあたり見ざれど、
花を摘みて
×
われは宵より
書斎にありき。
物書くに筆躍りて
狂ほしくはずむ心は
振返れば、
隅なる書架の上に、
思はずも、我は
手を伸べて叫びぬ、
「おお、我が待ちし
七つの太陽は
×
どの
皆、唇なり。
春の唇、
本能の唇、
恋人の唇、
詩人の唇、
皆、
皆、歌へる唇なり。
×
あはれ、
若やかに、
青磁の
宵より忍び居て、
この
あへなくも
息を
×
わが
めでたき
盛りの
恋知らぬ
清らなる
これらの花よ、
人間の身の
われ知りぬ、
及び
われに親しきは、
肉身の深き底より
燃えあがる
はた、
青ざめて、
月の光に似たる
深き疑惑に沈み
×
ほろりと、秋の真昼、
緑の四角な
卓の上へ静かにこぼれる。
泡のやうな
月の光のやうな線、
ラフワエルの
つつましやかな
散る日にも悲しみを秘めて、
修道院の壁に
尼達のやうには青ざめず、
清く
高い、温かい
みづから
わたしの書斎を浸してゐる。
×
まあ華やかな、
けだかい、燃え輝いた、
咲きの盛りの
どうして来てくれたの、
このみすぼらしい部屋へ、
この
どんな
どんな美しい恋人の贈物にも、
ふさはしい最上の花である。
もう若さの去つた、
そして平凡な月並の苦労をしてゐる、
哀れな
どうして、そなたの友であらう。
人間の
そなたを見て、私は
今ひしひしと
でも、
私は窓掛を引いて、
そなたを
それは、あの太陽に
そなたを奪はせないためだ、
そなたを守りたいためだ。