与謝野晶子詩歌集

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  〔無題〕 
 
誰か知る、をみなの城を。 
われはここにぞ立て籠る。 
来り攻めよ、わがおほぎみ、 
わが親、わが、わがはらから、 
あはれ最後の戦ひに 
われは瘋癲病院の 
冷き城に立て籠る。 
 
 
 
 
 
 
 
  〔無題〕 
 
庭つ鳥くだかけもくすなる 
みにくき事す。 
ただそれのみ。 
あはれ言ひ解くすべも無しや。 
麗しき、麗しき歌はあれども。 
 
 
 
 
 
 
 
  〔無題〕 
 
われは歩める。うなだれて 
そそ走り、また、たもとほり。 
さざら波うち寄する白き渚を。 
ああ今は男に作るわが媚もものうきよ。 
あはれ其の男の笑みも醜かり。 
唯白き、白き渚のつづくまで 
われは歩まめ。