与謝野晶子詩歌集

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ひと花はみづから渓にもとめきませ若狭の雪に堪へむくれなゐ 
 
『筆のあとに山居やまゐのさまを知りたまへ』人への人の文さりげなき 
 
 
 
 
 
 
 
  〔無題〕 
 
跣足はだしで歩いた粗樸なの人が 
石笛を恋の合図に吹くよな雲雀ひばり。 
九段くだんの阪をのぼるとて 
鳥屋の軒で啼く雲雀、それを聞けば、 
わたしの二人の子を預けて置く 
玉川在の瑠璃色の空で啼いて雲雀が 
薄くらがりの麦畑むぎばたで 
村のわんぱくに捕られたのぢやないか。 
雛から鳥屋で育つた雲雀としりながら、 
五町すぎ、七町すぎ、 
うちの門まで気に掛る雲雀。