山蓼のそれよりふかきくれなゐは梅よはばかれ神にとがおはむ
魔のまへに
巴里雑詠
しろい象牙の細櫛で
梳けばほろほろ、あさましく
昨日も今日も落ちること。
君に見せじと、物かげに
隠れて梳けば、わが
鏡にうつる青白さ。
身のすくむまでうら悲し。
巴里の街の
はや八月に散りかかる。
わたしの髪もこの国の
慣れぬ夜風に吹かれたか。
いいえ、それとも、憎らしく、
しろい象牙の細櫛が
鑢となりて擦り切るか。
恋を貪るこらしめに。
または悲しい人の世の
命の秋の入口に、
わたしも早く著きながら、
真夏の花をまだ嗅ぐか。
梳けばほろほろ、
昨日の恋が、今日の血が、
からんだ髪を琴にして。
心ひとつは若々と、
かをる油に打浸り、
死なぬ焔を立つれども、
ああ灰のよに髪が散る。
秋の
卓の上から二三輪
だりあの花の反りかへる
赤と金とのヂグザグが
針を並べた触をして、
きゆつと瞳を刺し通し、
朝のこころを慄はせる。
見返る
赤と金とのヂグザグが
花の
今日の命を吸へと云ふ。
それに書斎の片隅の
積んだ書物の間から、
夜の名残をただよはす
蔭に沈んで、寒さうに、
痩せた死人の頬を見せる
青いさびしい白菊が、
薬局で嗅ぐ風のよに
苦いかをりを立てるのは
まだ覚め切らぬ来し方の
わたしの夢の影であろ。