与謝野晶子詩歌集

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わかき子がちゝの香まじる春雨に上羽うはばを染めむ白き鳩われ 
 
夕ぐれを花にかくるる小狐のにこ毛にひびく北嵯峨の鐘 
 
 
 
 
 
 
 
  見ずや君 
 
「見ずや君よ」と書きてまし、 
ひと木盛りの紅梅を。 
否、否、庭の春ならで、 
猶も蕾のこの胸を。 
 
 
 
 
 
 
 
  〔無題〕 
 
うすくれなゐの薔薇さきぬ、 
妬ましきまで、若やかに 
力こもりて笑む花よ、 
人の持つより熱き血を 
自然の胸に得し花か。 
 
うすくれなゐの薔薇さきぬ、 
この花を見て、傷ましき、 
はた恨めしき思出の 
何一つだに無きことも 
先づこそ我に嬉しけれ。 
 
うすくれなゐの薔薇さきぬ、 
人よ、来てへ、この日頃。 
我等が交す言の葉に 
燃ゆる命の有り無しは 
花に比べて知りぬべし。 
 
うすくれなゐの薔薇さきぬ、 
この美くしく清らなる、 
この尊げに匂ひたる、 
花の証のある限り、 
愛よ、そなたを我れ頼む。