なつかしの湯の香梅が香山の宿の板戸によりて人まちし闇
詞にも歌にもなさじわがおもひその日そのとき胸より胸に
歌にねて
〔無題〕
我は俄に筆を
我が書き行く文字の上に、
スフインクスの意地悪るき
ちらと覗く、それを見つれば。
〔無題〕
永久の糧を送れと。
わが思ひつる如くにも
かの人は返事せず。
さて、ひと日過ぎ、
われは今みづから思ふ、
まことに恋に飢ゑつと。
〔無題〕
灰となれば淋しや、
薔薇を焼きしも、
みな
されば、我は
薔薇に執せず、
榾に著せず、
唯だ求む、火となることを。
〔無題〕
悒欝の日がつづく、
わが思ひは暗し。
わが肩を
重き錯誤の時。
身は醒めながら
悪夢の中に痩せて行く。
〔無題〕
月の出前の
マニラ
牡丹の花が前に咲き、
孔雀の鳥が舞ひ
まして、輪を
それの煙を眺むれば、
舞うて空ゆく身が見える。