与謝野晶子詩歌集

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その子ここに夕片笑ゆふかたゑみの二十はたちびと虹のはしらを説くに隠れぬ 
 
このあした君があげたるみどり子のやがて得む恋うつくしかれな 
 
 
 
 
 
 
 
  向日葵と花子 
 
ほんに不思議や、きらきらと 
光る円顔、黄金きんの髪、 
童すがたのお日様が、 
風に吹かれてゆらゆらと 
黄金きんの車に乗りながら、 
青い空から降りて来て、 
花子の居間をさし覗く。 
 
さい花子はお日様を 
近く眺める嬉しさに、 
眩しいことも打忘れ、 
思はず窓に駆け寄れば、 
またも不思議や、お日様は 
直ぐに一輪、向日葵ひまはりの 
花に変つて立つて居る。 
 
 
 
 
 
 
 
  秋が来た 
 
涼しい涼しい秋が来た 
花子の好きな秋が来た。 
空は固より、日の色も 
水も空気も吹く風も 
すつきりしやんと澄み徹る。 
 
まして静かなとなれば 
ちさい花子が面白い 
お伽噺を読む側で 
月はきんきん黄金きんの色 
虫はりんりん鈴の声。 
 
ちさい花子の思ふやう 
竹の中から美くしい 
赫夜姫かぐやひめをば見附けたも 
かうした秋の日であらう。 
涼しい涼しい秋が来た。 
 
 
 
 
 
 
 
  光る栗の実 
 
裏の林の秋の昼 
静かな中に音がした。 
何の音かと小走りに 
ちさい花子が来て見たら 
まんまるとした栗の実が 
高い枝から落ちて居る。 
 
いがを離れた栗の実は 
今あたらしく世に生れ 
空を見るのが嬉しいか 
一つ一つに莞爾にこにこと 
い笑顔をば光らせる。 
そして花子も好い笑顔。