与謝野晶子詩歌集

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このおもひ真昼の夢と誰か云ふ酒のかをりのなつかしき春 
 
みどりなるは学びの宮とさす神にいらへまつらで摘む夕すみれ 
 
 
 
 
 
 
 
  花を摘む 
 
だれも、だれも、 
春の日に 
花を摘む。 
むらさきの花、 
紅い花。 
庭で摘む、 
野で摘む、 
山で摘む。 
むらさきの花 
紅い花。 
 
わたしも花を 
摘むけれど、 
淋しいわたしの 
摘む花は、 
うなだれた花、 
泣いた花。 
野にも、山にも 
見つからぬ 
欝金の花や 
青い花。 
 
春が来たとて 
外へ出ず、 
自分の書いた 
絵の中と、 
自分の作る 
歌の中、 
其処で摘む、 
独りで摘む。 
欝金の花や 
青い花。 
 
 
 
 
 
 
 
  啄木鳥 
 
咲いた盛りの 
桜のなかで、 
啄木鳥きつつきこつ、こつ。 
 
啄木鳥よ、 
おまへは自然の 
電信技師、 
何処へ打つのか、 
桜のなかで、 
春のしらせを 
こつ、こつと。