与謝野晶子詩歌集

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そら鳴りの夜ごとのくせぞくるほしきなれ小琴をごとよ片袖かさむ(琴に) 
 
ぬしえらばず胸にふれむの行く春の小琴とおぼせ眉やはき君(琴のいらへて) 
 
 
 
 
 
 
 
  願ひ 
 
虹のやうな衣物きもの、 
光る衣物、 
着いたいな。 
 
鳩のやうな白靴、 
細靴ほおそぐつ、 
穿きたいな。 
 
天馬のやうな大馬、 
青い馬、 
乗りたいな。 
 
みんなで着いたいな、 
みんなで穿きたいな、 
みんなで乗りたいな。 
 
そして、みんなで行きたいな、 
もおりの奥の花園へ 
みんなで踊りに行きたいな。 
 
 
 
 
 
 
 
  お猿 
 
お猿が出て来た、 
負はれて出て来た。 
お目をぱちくり[#「ぱちくり」に傍点]、 
赤んのお猿。 
 
お猿、手に持つ、 
ちさべにの扇。 
負はれたせなから 
ちよこなん[#「ちよこなん」に傍点]と降りた。 
 
降りたお猿は 
足もとふらふら[#「ふらふら」に傍点]、 
狭い座敷を 
斜めに歩るき、 
 
舞ふかとおもたら、 
嬢さんの前で、 
あれ、まあ、赤ンをする、—— 
いやなお猿。