与謝野晶子詩歌集

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まこと人を打たれむものかふりあげし袂このまま夜をなに舞はむ 
 
三たび四たびおなじしらべの京の四季おとどの君をつらしと思ひぬ 
 
あてびとの御膝みひざへおぞやおとしけり行幸源氏みゆきげんじ巻絵まきゑ小櫛をぐし 
 
しろがねの舞の花櫛おもくしてかへす袂のままならぬかな 
 
 
 
 
 
 
 
  鵞鳥の坊や 
 
ねんねんよ、ねんねんよ、 
雨が降るからねんねんよ、 
鳥舎とりやの鵞鳥もねんねした。 
 
ねんねんよ、ねんねんよ、 
鵞鳥の坊やのおめざには、 
ちいしやのを摘んでやろ。 
 
ねんねんよ、ねんねんよ、 
ううちの坊やのおめざには、 
ああかいお日様上げませう。 
 
ねんねんよ、ねんねんよ、 
梅雨つうゆのおあめも寝ておくれ、 
いゝ子の坊やはねんねした。 
 
 
 
 
 
 
 
  〔無題〕 
 
思ひあまれど猶しばし 
云はでこらへるたのしさよ、 
如何にすぐれた歌とても 
書いてしまへば旧くなる。 
すべて当世たうせのあやまちは 
要らぬ言葉の多きなり。 
 
 
 
 
 
 
 
  〔無題〕 
 
寒山は詩を作り、 
拾得は釜を焚く。 
それで昔は暮された。 
ああ一千九百三十年、 
わたくしはまた随筆を売る。