与謝野晶子詩歌集

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人の子の恋をもとむる唇に毒ある蜜をわれぬらむ願ひ 
 
ここに三とせ人の名を見ずその詩よまず過すはよわきよわき心なり 
 
 
 
 
 
 
 
  日本国民 朝の歌 
 
ああ大御代の凜凜しさよ、 
人の心は目醒めたり。 
責任感に燃ゆる世ぞ、 
「誠」一つに励む世ぞ。 
 
空疎の議論こゑを絶ち、 
妥協、惰弱の夢破る。 
正しきかたに行くを知り、 
百の苦難に突撃す。 
 
身は一兵士、しかれども、 
破壊筒をば抱く時は、 
鉄条網に躍り入り、 
実にその身をと成せり。 
 
身は一少佐、しかれども、 
敵のなさけに安んぜず、 
花より清く身を散らし、 
武士の名誉を生かせたり。 
 
其等の人に限らんや、 
同じ心の烈士たち、 
わが皇軍の行く所、 
北と南に奮ひ起つ。 
 
わづかに是れはいつの例。 
われら銃後の民もまた、 
おのおの励むわざの為め、 
自己の勇気を幾倍す。 
 
武人にあらぬ国民も、 
尖る心に血を流し、 
命を断えず小刻みに 
国に尽すは変り無し。 
 
たとへば我れの此歌も、 
破壊筒をば抱きながら 
鉄条網にわしり寄り 
投ぐる心に通へかし。 
 
無力の女われさへも 
かくの如くに思ふなり。 
いはんやすべて秀でたる 
父祖の美風を継げる民。 
 
ああ大御代の凜凜しさよ、 
人の心は目醒めたり。 
責任感に燃ゆる世ぞ、 
「誠」一つに励む世ぞ。