与謝野晶子詩歌集

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あまきにがき味うたがひぬ我を見てわかきひじりの流しにし涙 
 
歌に名はあひはざりきさいへ一夜ひとよゑにしのほかの一夜とおぼすな 
 
 
 
 
 
 
 
  〔無題〕 
 
うす紫と、淡紅色ときいろと、 
白と、萠黄と、海老色と、 
夢の境で見るやうな 
はかない色がゆらゆらと 
わたしの前で入りまじる。 
女だてらに酔ひどれて、 
月の明りにしどけなく 
乱れて踊る一むれか。 
わたしの窓の硝子がらすごし 
風が吹く、吹く、コスモスを。 
 
 
 
 
 
 
 
  炉の前 
 
かたへの壁の炉の火ゆゑ 
友の面輪も、肩先も、 
後ろの椅子も、手のふみも、 
濃き桃色にほほゑみぬ。 
 
部屋の四隅の小暗くて、 
中に一もと寒牡丹 
われと並びて咲くと見る 
友の姿のあてやかさ。 
 
春にひとしき炉の火ゆゑ 
友も我身も、しばらくは 
花の木蔭を行く如く 
こゝろごころに思ひ入る。 
 
楽しき由を云はんとし、 
伏せし瞳を揚ぐる時 
友も俄かに手を解きて 
我手の上にさし延べぬ。