春の小川うれしの夢に人遠き朝を絵の具の紅き流さむ
もろき虹の七いろ恋ふるちさき者よめでたからずや
蔭にわたしを立てながら、
優しく物を云ひ掛ける。
もう落葉した路の楢。
楢とわたしは目で語る、
風が聴かうと覗くから。
×
杉にからんだ蔓を攀ぢ、
秋の夕日が食べてゐる、
山の葡萄の朱の
ちぎれて低く駆けて来る
雲は二三の野の羊。
×
わたしを何処へ捨てたのか、
とんと思ひがまとまらぬ。
がらん[#「がらん」に傍点]としたる
前に尾を振る白い犬、
これを眺めてもう
×
裾野の路に、たくたくと、
二町はなれた森にまで
秋にひびかす靴のおと。
わたしは森の端に出で、
呼びたけれども、旅の人。