与謝野晶子詩歌集

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春の小川うれしの夢に人遠き朝を絵の具の紅き流さむ 
 
もろき虹の七いろ恋ふるちさき者よめでたからずや魔神まがみつばさ 
 
 
蔭にわたしを立てながら、 
優しく物を云ひ掛ける。 
もう落葉した路の楢。 
楢とわたしは目で語る、 
風が聴かうと覗くから。 
   × 
杉にからんだ蔓を攀ぢ、 
秋の夕日が食べてゐる、 
山の葡萄の朱の紅葉もみぢ。 
ちぎれて低く駆けて来る 
雲は二三の野の羊。 
   × 
わたしを何処へ捨てたのか、 
とんと思ひがまとまらぬ。 
がらん[#「がらん」に傍点]としたるくうのなか、 
前に尾を振る白い犬、 
これを眺めてもう七日なぬか。 
   × 
裾野の路に、たくたくと、 
二町はなれた森にまで 
秋にひびかす靴のおと。 
わたしは森の端に出で、 
呼びたけれども、旅の人。