与謝野晶子詩歌集

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酔に泣くをとめに見ませ春の神男の舌のなにかするどき 
 
その酒の濃きあぢはひを歌ふべき身なり君なり春のおもひ子 
 
 
秋の日ざしに照り透り、 
蔦の紅葉もみぢがさつと散る。 
どれも身軽な紅い鳥。 
今日は深山みやまの崖となる、 
見上げる壁に一しきり。 
   × 
既に云ひ得ず、今の史家、 
未来の史家も誤らう、 
時を隔てて何知らう。 
真の批判が世にあるか、 
自負する人は寒からう。 
   × 
ハンドバツクを持つ振も 
みなが凜凜しく、大事らし、 
そして鋪道を西ひがし。 
霜に曇つたこの朝も 
職ある娘はいそぎ足。 
   × 
霜ふらぬに園の薔薇、 
乏しけれども秋の薔薇、 
純情の薔薇、夢の薔薇、 
これを摘まずば寂しかろ、 
べにと薄黄に香る薔薇。