与謝野晶子詩歌集

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うらわかき僧よびさます春の窓ふり袖ふれて経くづれきぬ 
 
今日けふを知らず智慧の小石は問はでありき星のおきてと別れにし朝 
 
 
 
 
 
 
 
  元旦の歌 
 
やれ、春が来た、ほんのりと 
日のさす中に、街々の 
並木二側、梅ねずみ。 
 
やれ、春が来た、この朝の 
空は藤色、日本晴 
下に並木の梅ねずみ。 
 
やれ、春が来た、金の目が 
どの窓からもさし覗く 
そして並木の梅ねずみ。 
 
 
 
 
 
 
 
  春の初めに 
 
春の初めに打て、打て、鼓。 
打てば小唄に、やれ、この、さあ、 
四方よもの海さへを挙げる。 
 
春の初めに振れ、振れ、袂。 
振れば姿に、やれ、この、さあ、 
天つ日さへも靡き寄る。 
 
春の初めに舞へ、舞へ、舞を。 
舞へば情に、やれ、この、さあ、 
野山の花も目を開く。 
 
春の初めに飲め、飲め、酒を。 
飲めば笑らぎに、やれ、この、さあ、 
福の神さへ踊り出す。