ゲーテ ファウスト

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四阿あずまや

 

マルガレエテ飛び込み、扉の背後にかくれ、右の示指の尖を脣に当て、隙間より外を窺ふ。

    マルガレエテ
いらしった。

ファウスト登場。

    ファウスト 
 
     横着ものだね。わたしを揶揄からかうなんて。
 
そらつかまえたぞ。(接吻す。) 
 
    マルガレエテ

(抱き着き、接吻し返す。)

       あなた。しんから可哀くてよ。

メフィストフェレス戸をたたく。

    ファウスト(足踏す。)
誰だ。 
 
    メフィストフェレス
  おつれです。 
 
    ファウスト 
 
      畜生。 
 
    メフィストフェレス 
 
        そろそろお切上きりあげなさらなくては。

マルテ登場。

    マルテ
本当に遅くなりますよ。 
 
    ファウスト 
 
          送って行ってはいけないかい。 
 
    マルガレエテ
それこそあ様が。さようなら。 
 
    ファウスト 
 
              行かなくてはならんかなあ。
そんならこれで。 
 
    マルテ 
 
       御機嫌好う。 
 
    マルガレエテ 
 
            こん度はお早くね。
 

(ファウスト、メフィストフェレス退場。)

まあ。ああ云う男の方と云うものは
いろいろな事にお気が附くこと。
わたしぼんやりして立っていて伺って、
何を仰ゃっても、はいはいと云うきりだわ。
わたし、まあ、なんと云う馬鹿な子だろ。
 
わたしのどこがお気に入るのかしら。(退場。)
 
 

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