ゲーテ ファウスト

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井の端

 

水瓶を持ちたるグレエトヘン(マルガレエテ)とリイスヘンと。

    リイスヘン
あなたバルバラさんの事を聞いて。 
 
    グレエトヘン
知らなくってよ。人の出る所へ行かないのですもの。
  
 
    リイスヘン
本当なの。ジビルレさんがきょうそう云ってよ。
とうとう騙されちまったのだってねえ。
上品振った挙句だわ。 
 
    グレエトヘン 
 
         どうしたと云うの。 
 
    リイスヘン 
 
                 評判だわ。
飲食のみくいをするにも二人養うようになったのだとさ。 
 
    グレエトヘン
まあ。
  
 
    リイスヘン
い気味だわ。
随分長くあの男にっ附いていたわねえ。
やれ散歩に連れて行く、
そりゃ村の踊場へ連れて行くと云う風で、
どこでも一番の女だと見せ附けて、
 
葡萄酒やパテを御馳走してねえ。
だもんだから自惚うぬぼれてい女の気になっていたわ。
男に物なんか貰うのを
恥かしいとは思わない程、根性が腐っていたのだわ。
め附いたり吸い附いたりしてさ。
 
いつの間にか生娘ではなくなっていたのね。 
 
    グレエトヘン
可哀そうねえ。 
 
    リイスヘン 
 
      あなたなんかそう思って。
わたしなんか糸取いととりが忙しくって、
おっさんが夜外へ出さないのに、
い人の所へ降りて行って、立話をしていたのね。
 
暗い廊下に立ったり、戸口のベンチに
掛けたりしていて、時が立っても平気だったわ。
そのかわり今へこたれて、罪の襦袢じゅばんを著て、
お寺へ行ってあやまるが好いわ。 
 
    グレエトヘン
でもきっとあの人がお上さんに持つでしょう。
  
 
    リイスヘン
そんな事をすれば馬鹿よ。気の利いた
男だもの。余所でもらくに遊べるわ。

もう行ってしまったって。 
 
    グレエトヘン 
 
           まあ、ひどい事ね。 
 
rb    リイスヘン
もしお上さんになったら、ひどい目に逢うわ。
若い衆達は髪の青葉を引っ手繰るし、
 
わたし達は門口へ切藁きりわらいて遣るわ。(退場。) 
 
    グレエトヘン(家に帰りつゝ。)
今までは余所の娘が間違でもすると、
わたしもどんなにか元気好くけなしただろう。
余所の人のしたと云う罪とがを責めるには、
わたしもどんなにか詞数ことばかずが多かっただろう。
 
人のした事が黒く見える。その黒さが
足りないので、一層黒く塗ろうとする。
そして自分を祝福して、えらい人のように思う。
今は自分も犯しているのに。
だけれど、だけれど、それまでになる道筋は、
 
まあ、あんなに好かったのに、あんなに美しかったのに。
 
 

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