第弐拾章
(一)
せめて彼の先輩だけに自分のことを話さう、と
『
とまた自分で自分を憐むやうに叫んだ。
斯ういふ
上の渡し近くに在る一軒の
零落――丑松は今その前に面と向つて立つたのである。船頭や、
月は空にあつた。今迄黄ばんだ
時とすると、
前の方からも、
それは割合に気候の
(二)
丁度演説会が終つたところだ。聴衆の群は雪を踏んでぞろ/\帰つて来る。思ひ/\のことを言ふ人々に近いて、其となく会の模様を聞いて見ると、いづれも激昂したり、憤慨したりして、一人として高柳を
月明りに立留つて話す人々も有る。其
また他の一群に言はせると、其演説をして居る間、蓮太郎は幾度か血を吐いた。終つて演壇を下りる頃には、手に持つた
兎に角、蓮太郎の演説は深い感動を町の人々に伝へたらしい。丑松は先輩の大胆な、とは言へ
呼留めて、蓮太郎のことを尋ねて見て、其時丑松は亭主の口から意外な
あゝ、丑松が駈付けた時は、もう間に合はなかつた。丑松ばかりでは無い、弁護士ですら間に合はなかつたと言ふ。聞いて見ると、蓮太郎は
(三)
『先生――私です、瀬川です。』
何と言つて呼んで見ても、最早聞える
月の光は青白く落ちて、一層
軈て町の役人が来る、巡査が来る、医者が来る、間も無く死体の検査が始つた。提灯の光に照された先輩の死顔は、と見ると、頬の骨
斯ういふことゝ知つたら、もうすこし早く自分が同じ新平民の一人であると打明けて話したものを。あるひは其を為たら、自分の
後悔は何の
(四)
涙は
其時に成つて、始めて丑松も気がついたのである。自分は其を
警察署へ行つた弁護士も帰つて来て、蓮太郎のことを丑松に話した。上田の
斯う言つて、
見れば見るほど、聞けば聞くほど、丑松は死んだ先輩に手を引かれて、新しい世界の方へ連れて行かれるやうな心地がした。告白――それは同じ新平民の先輩にすら
いよ/\明日は、学校へ行つて