風景観察官 宮沢賢治

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風景観察官

あの林は
あんまり緑青ろくしやうり過ぎたのだ
それでも自然ならしかたないが
また多少プウルキインの現象にもよるやうだが
も少しそらから橙黄線たうわうせんを送つてもらふやうにしたら
どうだらう

ああ何といふいい精神だ
株式取引所や議事堂でばかり
フロツクコートは着られるものでない
むしろこんな黄水晶シトリンの夕方に
まつさをな稲の槍の間で
ホルスタインのぐんを指導するとき
よく適合し効果もある
何といふいい精神だらう
たとへそれが羊羹やうかんいろでぼろぼろで
あるいはすこし暑くもあらうが
あんなまじめな直立や
風景のなかの敬虔な人間を
わたくしはいままで見たことがない

(一九二二、六、二五)