山羊の歌 中原中也

2016/10/04

山羊の歌
中原中也
 
  
 

   

 春の日の夕暮
 
 
 
 

トタンがセンベイ食べて
春の日の夕暮は穏かです
アンダースローされた灰が蒼ざめて
春の日の夕暮は静かです
 
ああ! 案山子かかしはないか――あるまい
いななくか――嘶きもしまい
ただただ月の光のヌメランとするまゝに
従順なのは 春の日の夕暮か
 
ポトホトと野の中に伽藍がらんは紅く
荷馬車の車輪 油を失ひ
私が歴史的現在に物を云へば
嘲る嘲る 空と山とが
 
瓦が一枚 はぐれました
これから春の日の夕暮は
無言ながら 前進します
みづからの 静脈管の中へです
 
 
 
  
 
  
 
  
 

 
       
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 底本:「中原中也詩集」岩波文庫、岩波書店
   1981(昭和56)年6月16日第1刷発行
   1997(平成9)年12月5日第37刷発行
底本の親本:「中原中也全集 第1巻 詩 ※()」角川書店
   1967(昭和42)年10月20日印刷発行
初出:「山羊の歌」文圃堂
   1934(昭和9)年12月10日
入力:浜野安紀子
1998年11月29日公開
2010年11月2日修正
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