山羊の歌 中原中也

.

   

 

   

 少年時
 
 
 
 

あをぐろい石に夏の日が照りつけ、
庭の地面が、朱色に睡つてゐた。
 
地平の果に蒸気が立つて、
世の亡ぶ、きざしのやうだつた。
 
麦田には風が低く打ち、
おぼろで、灰色だつた。
 
びゆく雲の落とす影のやうに、
田のを過ぎる、昔の巨人の姿――
 
夏の日のひる過ぎ時刻
誰彼の午睡ひるねするとき、
私は野原を走つて行つた……
 
私は希望を唇に噛みつぶして
私はギロギロする目で諦めてゐた……
ああ、生きてゐた、私は生きてゐた!