山羊の歌 中原中也

.

   

 

   

 夏
 
 
 
 

血を吐くやうな ものうさ、たゆけさ
今日の日も畑に陽は照り、麦に陽は照り
睡るがやうな悲しさに、み空をとほく
血を吐くやうな倦うさ、たゆけさ
 
空は燃え、畑はつづき
雲浮び、眩しく光り
今日の日も陽はゆる、地は睡る
血を吐くやうなせつなさに。
 
嵐のやうな心の歴史は
終焉をはつてしまつたもののやうに
そこからたぐれる一つのいとぐちもないもののやうに
燃ゆる日の彼方かなたに睡る。
 
私は残る、亡骸なきがらとして――
血を吐くやうなせつなさかなしさ。