山羊の歌 中原中也

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 心象
 
 
 
 

   

 ※(ローマ数字1、1-13-21)
 

松の木に風が吹き、
踏む砂利の音は寂しかつた。
暖い風が私の額を洗ひ
思ひははるかに、なつかしかつた。
 
腰をおろすと、
浪の音がひときは聞えた。
星はなく
空は暗い綿だつた。
 
とほりかかつた小舟の中で
船頭がその女房に向つて何かを云つた。
――その言葉は、聞きとれなかつた。
 
浪の音がひときはきこえた。

 

   

 ※(ローマ数字2、1-13-22)
 

亡びたる過去のすべてに
涙湧く。
城の塀乾きたり
風の吹く
 
なび
丘を越え、野をわた
憩ひなき
白き天使のみえ来ずや
 
あはれわれ死なんと欲す、
あはれわれ生きむと欲す
あはれわれ、亡びたる過去のすべてに
 
涙湧く。
み空の方より、
風の吹く