羊の歌
安原喜弘に
祈り
死の時には私が
この小さな
それよ、私は私が感じ得なかつたことのために、
罰されて、死は来たるものと思ふゆゑ。
あゝ、その時私の仰向かんことを!
せめてその時、私も、すべてを感ずる者であらんことを!
思惑よ、汝 古く暗き気体よ、
わが
われはや単純と静けき
とまれ、清楚のほかを
交際よ、汝陰鬱なる
われはや孤寂に耐へんとす、
わが腕は既に無用の
汝、疑ひとともに見開く
見開きたるまゝに暫しは動かぬ眼よ、
あゝ、己の外をあまりに信ずる心よ、
それよ思惑、汝 古く暗き空気よ、
わが裡より去れよかし去れよかし!
われはや、貧しきわが夢のほかに興ぜず
我が生は恐ろしい嵐のやうであつた、
ボードレール
九歳の子供がありました
女の子供でありました
世界の空気が、彼女の
またそれは、
彼女は頸をかしげるのでした
私と話してゐる時に。
私は
彼女は畳に坐つてゐました
冬の日の、珍しくよい天気の午前
私の
彼女が頸かしげると
彼女の
私を信頼しきつて、安心しきつて
かの女の心は
そのやさしさは
鹿のやうに縮かむこともありませんでした
私はすべての用件を忘れ
この時ばかりはゆるやかに時間を熟読
Ⅳ
さるにても、もろに
夜な夜なは、下宿の
思ひなき、思ひを思ふ 単調の
つまし心の連弾よ……
汽車の笛聞こえもくれば
旅おもひ、幼き日をばおもふなり
いなよいなよ、幼き日をも旅をも思はず
旅とみえ、幼き日とみゆものをのみ……
思ひなき、おもひを思ふわが胸は
閉ざされて、
しらけたる
酷薄の、これな
これやこの、慣れしばかりに耐へもする
さびしさこそはせつなけれ、みづからは
それともしらず、ことやうに、たまさかに
ながる涙は、人恋ふる涙のそれにもはやあらず……